スマホ依存の深刻化、日本での対策が本格化

日本

スマートフォンは現代生活に不可欠なものとなった。通話やメッセージだけでなく、インターネット検索、オンラインショッピング、健康管理まで、その用途は多岐にわたり、社会と経済に計り知れない利益をもたらしている。しかし、その依存度が高まるにつれて、過度な使用が健康や人間関係、生産性に及ぼす悪影響への懸念が深刻化している。

世界的な課題となるスマホ利用と各国の規制

スマートフォンの利用は世界的に拡大を続けている。2024年には世界の普及台数が45億台に達し、1日あたりの平均利用時間も増加傾向にある。ある調査によれば、1日の平均利用時間が最も長いのはフィリピンで5時間21分、次いでブラジルが5時間12分、南アフリカが5時間11分であった。また、別のアメリカの報告書では、平均で1日5時間16分という数字も示されている。このような長時間の利用は、スマホが現代のライフスタイルの中核をなしていることを示す一方、その持続可能性についての問題を提起している。

こうした状況を受け、各国で対策が進められている。フィンランドでは2025年8月に小中学校でのスマホ使用を制限する法律が施行されたほか、フランス、イタリア、オランダ、中国でも同様の学校内での規制が導入されている。韓国でも来年3月からの導入が予定されている。また、オーストラリアやノルウェーでは、未成年者を過度な利用から保護するため、ソーシャルメディアの利用に年齢制限を設ける動きも見られる。

日本国内の現状と課題

日本における平均利用時間は週に約20時間、1日あたり3時間弱と推定されており、国際的に見て突出して高いわけではない。しかし、その影響は着実に表れている。内閣府の2024年の調査では、スマホの利用時間が長い人ほど孤独感を抱きやすい傾向が明らかになった。

さらに、使用をコントロールできなくなり、学業や仕事、日常生活に支障をきたす「スマホ依存」が社会問題化している。国内の高校生の約10%、大学生の約25%がその状態にある可能性が指摘されており、新たな社会的課題として浮上している。こうした状況を背景に、日本でも学校や家庭での利用習慣を見直すことを促す、規制を含む新たな取り組みが進められている。

全国初の条例と若者たちの挑戦

これまで日本の自治体や団体は、啓発キャンペーンやデジタルデトックスの機会提供などを通じて意識向上を促してきたが、2025年に入り、より具体的な措置が講じられ始めた。

愛知県豊明市では、全国で初となる「スマートフォン使用ガイドライン」を定めた条例が制定され、今月から施行された。この条例は、市内の学校に通う18歳未満の子どもを含む約6万9000人の市民を対象とし、仕事や勉強を除いた自由時間内のスマホ使用を1日2時間以内に抑えることや、小学生は午後9時まで、中学生以上は午後10時までに使用を終えるよう、各家庭でルール作りを推奨している。罰則規定はないが、利用状況を自己点検し、家族で話し合うきっかけ作りを目的としている。後木克巳市長は、スマホ依存によって不登校になったり、外で遊ばなくなったりする子どもを心配する保護者の声が条例制定の動機になったと説明している。

この「1日2時間」という制限に対し、20代の若者たちが挑戦した。都内の企業に勤める森山翔希さん(25)は、普段1日に8時間もスマホを使用するという。「情報戦を勝ち抜くにはスマホが必須」と語る彼は、「2時間はあまりにも短すぎる」としながらも、挑戦の結果、使用時間を1時間50分に短縮。空いた時間で読書や勉強、ジムに行くなど、有意義な1日を過ごせたと語る。

一方で、大学生の斎藤あかりさんは「利用時間の量より質に焦点を当てるべき」と指摘する。彼女は通学の電車内や歩行中にスマホを手放すことの難しさを感じつつも、「スマホの利用を減らせば、1日が長く感じられ、もっと有意義に過ごせるかもしれない」と可能性を見出している。この条例に対し、一部市民からは「私生活への干渉だ」との批判も寄せられたが、後木市長は「2時間という数字を聞くことで、自分の使用時間を一度立ち止まって考えてもらうことが狙いだ」と、条例の意図を説明している。

新たな懸念「スマホ認知症」専門外来も開設

問題は依存だけにとどまらない。2025年6月、東京に日本初となる「スマホ認知症」の専門外来が開設された。スマホ認知症とは、スマートフォンから得られる大量の情報に長時間さらされることで脳の情報処理能力が追いつかなくなり、物忘れなどの一時的な認知症に似た症状が現れる状態を指す。

クリニックの推定では、国内で1000万〜2000万人がそのリスクを抱えている可能性があり、早期の発見と介入の重要性を強調している。7月の時点では1日に約10人の患者が訪れており、その多くが30代であるという傾向が特に注目を集めている。

スマートフォンがもたらす利便性や経済的恩恵は計り知れない。しかしその一方で、過度な使用がもたらす心身への影響は、個人だけでなく社会全体で向き合うべき課題となっている。豊明市の条例や専門外来の開設といった動きは、テクノロジーと健全に共存するための道を模索する日本社会の姿を映し出しており、今後の議論の行方が注目される。