【対談】現役美大生が先輩デザイナーに悩み相談:個性の見つけ方から将来の不安まで

黒りす
記事の著者:黒りす

美術大学・藝術大学に進学したからこそ持っている、作品や将来についての悩み。

美術大学を卒業し社会で働いている先輩方は、どうやってその悩みを乗り越えたのでしょうか。大学時代を振り返って何を後悔し、何を思うのでしょうか。

今回は、そんな疑問を持った現役美術大学生が先輩デザイナーと対談し、学校の課題と自主制作の両立方法から、将来やりたいことの見つけ方、単位の取り方まで、全部聞いてきました。

対談者プロフィール

田中美和さん
学校:多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコース1年生
悩み:企業に就職してデザイナーとして働きたいが、具体的な進路が決まらない

スワンさん(Twitter:@shiratoriyurie)
会社:Merpay, Inc.(メルペイ)UIUXデザイナー

2014年多摩美術大学、油画専攻卒業。在学中に独学でWEB開発やデザインを学び、個人受託やサービス開発、制作会社でのアシスタントを経て新卒で都内のITメガベンチャーへ入社。同社にてホームページ作成サービスの立上げに携わり、2016年同社の子会社の設立とともにマッチングサービスのリードデザイナーとして新規開発を行う。現在、株式会社メルペイにて金融サービスの新規開発中。プライベートでは地方ビエンナーレ参加や作品展示など、アーティストとしての活動も並行して行なっている。

スワンさんの入学時から今の職にたどり着くまで

在学中は、油画学科で現代アートを中心にやりつつ、ホームページ作成なども趣味で行なっていたスワンさん。

学校の授業でふと触れたプログラミングをきっかけにWEBの面白さと可能性に魅了され、大学1年次の春休みを使って独学でプログラミングと同時にデザインの勉強を始めました。

大学の先輩の紹介で始めた制作会社のデザイナーアシスタントの仕事をするうちに、デザイナーとしての道を意識。

制作会社を中心とした就活を経て、事業会社への興味に気付き就職します。そこからプロのUI/UXデザイナーとして活動しています。

自分の作品についての悩み相談

まずは、美大生なら誰しもが一度は抱く、自分の作品についての不安や悩みについての相談。

同分野の友達と自分を比べて劣等感を感じてしまったり、自分の個性の見つけ方がわからないという悩みに対し、スワンさんはどう回答したのでしょうか。

熱量を表に出すのが得意な人に惑わされない

今日はよろしくお願いします。

さっそくなんですけど…。

同期の作品への情熱がハンパなくて…。それについていけない時があるのが悩みなんですが、スワンさんはそういう時ってありましたか?

ありましたね、とてもわかります。私が先行していたのは現代アートの分野だったのですが、技量だけでなく知識もなかなか周りに追いつかなくて「あの作家もこの作品も知らないの?なんのために多摩美来たの?」って真っ向から同期に言われたり。

えぇ・・・。

情けないやら悔しいやらで、アトリエのベランダでわんわん泣いていました。(笑)

 

そういう時って、どうしたらいいんでしょう?

美大生には熱量を表に出すのが得意な人と、熱量を表に出さないけれど淡々とやる人の2タイプがいると思うんですよ。でもその淡々とやる人たちが、表現の得意な人に飲まれるパターンが多い。

でもそれって表に出すタイプなのかどうかの違いだけで、実はお互い同じくらいの熱量だったりするので住み分けの意識さえしておけばいいかなと。

自分と他人は別ってわかってはいるんですけど、でもどうしても劣等感を感じ焦ってしまう時があって。

その劣等感が「理想と現実の差」に対する憧れからきているなら、それは自分に足りないものを見つける良いキッカケなので、うまく利用してしまえば良いと思いますね。

なるほど。

純粋に自分が憧れて心から追いつきたいと思えるならそれで良いんですけど、例えばフォロワーが1万人いるとか、デザフェスで有名な人だとか。そういうのを片っ端から自分に要らないものまで羨ましいって感じてしまうのはもう「妬み」なので、そういうものとは意識をきちんと分けたほうが良いと思います。

自分が今多摩美に戻るんだったら、あの人の話は聞き流そうとか、すごいけれどそれは、私が欲しいものじゃないとか、もう少し上手く分けられたかなと思いますね。

スワンさんは、美大に入ったことを後悔したことはないんですか?

あまりないですね〜。あれだけデザインとかアートに目を光らせている集団の中で、膨大な自由時間を自分に使えることは、もうなかなかないので、単純に楽しかったです。

山手線ゲームで色の名前をテーマにして、ターコイズブルー、パーマネントホワイト、カドミウムレッド!などマニアックに楽しんでいたそう

自信が持てることは、きっと一生ない

自分の作品についてだと、自信が持てないとか、周りの個性が光りすぎて自分の作品の個性が見つからないという悩みとかもあって…。

美大生ならではのぶち当たる問題ですね。正直いうと、私も未だに自信はないです。50歳くらいの先輩も、やっぱ自信ないって言っていたので、ずっと何か物足りなさを感じながらものを作っていくのがデザイナーなのかな、なんて思うようになりました。

そうなんですか。

逆に100%の自信がついちゃったら、何も新しいことを学ばなくなっちゃうと思うんですよ。俺のデザイン最高だぜ!ってはじめから言い続けてる人のデザインはだいたい最高じゃないので。(笑)

ただ自分の作品は人に勧められるし、頂くお金に値する価値を担保することはできるって意味で、「恥じない」作品作りはできるようになりましたね。なので変な自信よりも、もう少し良くできたかもっていう悔しさを積み重ねていくと、10年後の景色が変わってくるんじゃないかなと思います。

消そうとしても残ってしまうものが「個性」

あと個性が見つからないってことについてなんですけど。実際デザインって、お客様の課題をヒアリングして、解決策を具現化する作業なんです。例えば自分の個性はピンクだからって決めつけても、真面目な就活サイトをピンクだらけの可愛らしいデザインにしちゃダメじゃないですか。

確かに。じゃあ、デザイナーはあまり個性を気にしなくていいんですね。

気にしなくていいと言うより、実は個性に関してずっと覚えている先輩の言葉があるのですが、「消そうとしても消そうとしても、残っちゃうものが個性だ」って言われたんです。

作品の方向性を模索してたくさんアウトプットしているうちに、誰かに君っぽいねって言われると思うんですよ。フォントの使い方とか写真の置き方とか、自分では「そこ!?」と思うようなことを言われたりもするので。

作品を作り続けていれば、個性は周りが教えてくれるなって、デザインをたくさん作ってきて思いました。

将来についての悩み相談

自分の作品をたくさん作るといっても、自分が何をしたいのかがわからない人は、何から始めれば良いのでしょうか。

具体的な将来が描けず不安だという悩みを抱えた田中さんとスワンさんの対談は、美大を卒業した後の将来の話に移りました。

自分の将来は、具体的な好きから見つける

将来デザイナーになりたいっていうのははっきりしているんですけど、2年生までにゲーム系など分野を決めないと、授業が選べなくて。自分が何に興味があるのかもわからないんです。

じゃあ、例えばデザイナーになりたいって思った時、どんなデザイナーをイメージしていましたか?

あの、もともとCDジャケットを作りたくて。でも、CDってなくなるなって気が付いて。

あはは、確かに。(笑)でもCDの何が好きだったんですか?

なんか、デザインしたいって思い始めたものがすごく可愛くて。

なるほど。じゃあCDと同じように他のプロダクトで興味が湧くものはありますか?例えばですけど、お菓子のパッケージでも同じような感情は生まれますか?あと、車など立体物とかは?このビン可愛いなとか、この化粧水のボトル好きだなとかありますか?

あれは好き?これは?と質問攻めにあう田中さん。

今のはすごい簡単な質問なんですけど、シンプルですがこんな風に何が好きなのか具体的なもので考えていくと、傾向が見えていくと思います。

今の感じだと、田中さんは立体より平面が好きそうですね。じゃあ、平面だとどんなものが作れるだろうかって広げていくんです。

名刺のデザインとか、タイポグラフィ的なのは、興味あるかもしれないです。

そこから、じゃあ名刺のデザインができる会社や職業ってなんだっけって考えていくと、さらにステップアップしますね。

努力は好きに勝てない

あと私は、好きと同じくらい、何が嫌いかを探すのも大事だと思っています。どんなに頑張っても、本当に好きな人の熱量や努力にはやっぱり勝てないなって、業界に入ってから実感しました。

それこそ例え話ですが、日本を代表するポスターが作りたい!と思っているのにいきなり3Dモデリングとか仕事にしたら、ヘソが曲がると思います。

自分の好き嫌いを中心に、将来を考えていいんですね。

最悪授業を取った後につまらないって思ったら、就職する前に見つけられてラッキーと思って、3年生からまた授業を変えればいいんです。

授業だけじゃなくて仕事も一緒で、後からいくらでも変えられるんです。社会人になってからデザイナーになった人とか、面白い経歴の人は周りにたくさんいます。今の選択だけで人生が決まるだなんて気負わずに、今1番ときめくものは何かで選んでみていいと思います。エンジョイしてください!

学校生活についての悩み相談

少しずつですが、自分の将来が見えてきた田中さん。しかしいざ将来のために頑張ろうと思っても、毎日の課題やバイトなどで、自主制作をする時間がないと悩む美大生もたくさんいます。

あっという間に時間が経って、何もできないまま卒業を迎えてしまうなんてことがないように、在学中の課題への取り組み方、時間配分についてのアドバイスを聞いていきます。

アマチュアとプロの差は、スタートダッシュできるかどうか

なんかもう、常に課題に追われていて…。スワンさんは、課題をささっと終わらせられていましたか?

いや、参考にならなくて申し訳ないんですけど、私はもう徹夜で泣きながら終わらせていましたね。1年生の頃は遊び呆けていたしヤケになって、ボンドで土を固めて、「友情です。」って批評会に出して教授に苦笑いされたこともあります。

(笑)

じゃあどっちがいいかっていうと、やっぱりスタートダッシュする方が良いんですよね。よくプロは、最初の8割を前半に作り終わると言われています。ビジネスだと絶対に締め切りがあるし、学校と違って課題内容がコロコロ変わります。仕様が変わったり、人が変わったり。

確かに、締め切り直前に少しでも内容が変わったら、終わらないかもしれないです。

少なくとも7割まで、最初にガッと作り上げる習慣はつけた方が良いかもしれないですね。徹夜明けの作品は大体絶望しますし。

今必要なことに時間を使う

でも、どうしても課題の時間配分が難しくて。

わかります。作業に自分の作品作り、さらにプライベートってなると、やはり24時間じゃ足りないなって、社会人になった今でも思いますよ。なのでよくやるのは1日の行動を全部書き出して、無駄な時間はないか、あればいかに減らせるかとか、時間管理のことは常に考えています。

それは、学生時代からですか?

在学後半ぐらいから、意識はしてませんでしたが自然としていましたね。たとえば、最初は普通のバイトをしていたんですけど、途中からデザインでバイトができたら時間が半分になるなって考えて、制作会社にアルバイトで飛び込みました。学科の課題に加えてデザインの勉強もやらなきゃって考えると、人の2倍以上の作業時間が必要だったので。

あとはどうしてもキャパが足りなくて、好きだった部活を2年でやめたり、あまりいい事ではないけど、当時は気がついたら実家に帰るのが年末だけになってしまったりしましたね。

やっぱり、思い切って好きなことに使う時間を減らしたり、時間の使い方を洗いだしたりしなきゃいけないんですね…。

もちろん時間をギチギチに管理して詰め込んでばかりだと疲れちゃうので、管理して余裕ができたときは家でひたすらだらける日を設けたりもしてますけどね。息切れしないための休息と、ご褒美も大切です。

学校の課題だけでは足りない

あと、ぜひ自主制作をして欲しいです。

学校のデザイン課題って、もう企業からすると一目でわかってしまうんですよね。毎年採用を見ているような人なら「あの学校の定番の課題ね」と課題すら見慣れていることも珍しくないです。なので、よほどクオリティーが高くないと、学校課題だけのポートフォリオでは大きなプラスの評価をもらえないと思います。

私は学生の頃、油絵学科の私がどうやったらデザイン科の課題+アルファのポートフォリオに勝てるかを、ひたすら考えていました。結果、自主制作をしまくって実際に使われたり、お金をいただいて納品したリアルな実績を作り、そのフローも公開して差別化ができないかと試行錯誤しました。そのかいもあって、当時デザイン科ではなかったにも関わらず就職活動でいくつか内定をいただけて本当に嬉しかったです。

最後の悩み相談

そろそろ最後みたいなのですが、田中さん最後に相談したいこととかあります?

うーん…。どうしたら単位取れますか???


単位か〜〜〜〜(笑)

心理学が、なんでこの授業取っちゃったんだろうって感じで。出席は、一応してます。

ちなみに心理学はデザイナーになりたいなら結構大事で、どうやってこの理論をデザインに使おうかなとか考えると、面白くなるかもしれないです。それでもダメなら、諦めて落としちゃってもいいんじゃないです?(笑)

え、いいんですか。

もちろん単位があまりに取れていないなら話は別ですが、たくさん授業はあるし、選んだ全ての授業でハマれるなんてそうそうにないので、ミスマッチはあると思います。ただし、2年生ごろから具体的にやりたいことが見える人も多いので、将来への投資だと思って単位は、最初のうちにたくさん取っておいたほうが良いとは思います。私は2年までに学科の必修を取り終わっていたおかげで、好きな勉強に打ち込めたしアシスタントの仕事もフルタイム週3で入れましたし。

ただ、私も実際2、3個は単位落としました。100点を目指そうとすると辛くなるので、好きなものを探しつつ90点ぐらいを目指していけば良いんじゃないかと。

なるほど。

対談を終えて

スワンさんから悩める美大生へのエール

悩んでいる時点でスタートラインには立てていると思うので、どうしたどうしたって優しく、セルフカウンセリングしてあげると良いと思います。

自分の気持ちを大事にしながら、やりたいことや嫌なことを丁寧に見つけてあげてください。

それから、美大は楽しいぞって伝えたいですね。

社会に出てから実感したんですけど、美大出身者って全体から見たら本当に少ないんですよ。なので現時点で周りに嫉妬できるような人がうじゃうじゃいるって、すごくいい環境だったんだなって。

だから、自分の意思で美大という道を選んで、あの過酷な受験を通過したんだっていうのは、偉そうにする必要はないけど素直に自信を持って欲しいです。あとはもう、自由にやっちゃってください。

田中さんの感想

今回、スワンさんのお話を聞いて自分の将来について少しながら考えることができました。

就職の話で特に印象的だったのが自分の好きを具体的なものから見つけるという話で、実際にスワンさんに好きなものを聞かれて、自分では全然そんなに気にしてなかったことも実は好きな分野だったということがわかって驚きました。

普段、大学でもそういった社会で活躍されていらっしゃる美大出身のデザイナーの方のお話を聞く機会はあるのですが、今回のような深めの話をするのは初めてだったのですごく貴重な機会で勉強になりました。

このインタビューを機に大学内のみならず外の世界にも目を向けてみようと思います!

この記事の執筆者・監修者

黒りす

黒りす

SARAS編集部。アメリカの田舎の大学に留学中です。哲学やコミュニケーションを学んでいて、将来は人を幸せにできる言葉を紡げるようになりたいです。