若者が抱える生活保護への違和感の背景とは

日本

生活保護に対して「働かずに酒ばかり飲んでいる」といった否定的な見方が根強く存在する。これはインターネット上の偏見に限らず、実際に貧困を経験した若者からも聞かれる声だ。今回は、ある若者の実体験を通して、生活保護制度への複雑な感情と現実を見つめていく。

取材に応じたKさん(取材当時25歳)は、幼少期に貧困の只中で育った。母親は美容師の専門学校を途中で辞め、父親はバブル崩壊で失業し、DVの末に離婚。Kさんは母親とともに公営住宅で生活する祖父のもとに身を寄せることになる。

祖父は働かずに生活保護を受給しながら、毎日のようにワンカップの酒を飲む生活。初めて祖父の部屋に入ったときの強烈な悪臭と汚れた環境に、Kさんは衝撃を受けた。「絶対こんなところで寝られない」と思ったという。

母親も仕事を持たず、祖父の生活保護費を頼りにしていたことが後に判明。Kさんは小学校3年生の夏、祖父の暴力を恐れ「帰りたくない」と母に訴えると、母は1,000円だけを渡して姿を消した。夏休み中で給食もなく、数日でお金は尽きた。周囲の友達からも臭いを理由に距離を置かれ、公園で時間をつぶしながら夜は祖父宅の玄関で眠り、朝になる前に逃げ出す日々だった。

3日間食べ物もなく過ごした末、Kさんは近くの店で万引きをし、保護される。迎えに来たのは祖父で、「次やるなら酒を盗んでこい」と言い放たれた。母親からも後で暴力を受けたという。

その後、児童養護施設や知人宅を転々とし、不良グループに身を置くようになったKさんは、中学時代には「鬼剃りパンチ」と呼ばれる髪型で周囲に知られる存在に。補導と少年院を経験し、17歳で東京へ。振り込め詐欺の世界に入り、現在は飲食店の共同経営者として生計を立てている。

当時、周囲にも生活保護を受けていた大人が多く、支給日に金を奪うため暴力を振るうこともあった。だが、追いかけてくる祖父の姿を見て、「それだけ元気なら働けるだろ」と感じたという。母親も生活保護に頼った時期があり、Kさんは「生活保護ってズルくないですか?」と、率直な疑問を投げかけた。

このように、生活保護制度に否定的な見解を持つ人々には大きく分けて二つのタイプがある。一つはネットの情報だけで判断する人々、もう一つはKさんのように現実の中で受給者の姿を見てきた人々である。後者に制度の意義を説明するのは極めて難しい。

しかし、記者はこれまでの取材の中で、元貧困者たちと対話を重ね、ある例え話を用いて彼らの心にアプローチしてきた。それが「連れションと月経周期の一致」という人間の集団行動に関する話だ。

なぜ人は一緒にトイレに行きたがるのか。なぜ女性の月経周期は共同生活で揃うのか。それは、人類が元々“集団で移動する生き物”だったから。移動中に足を止めずに済むように、生理現象のタイミングを揃えていた名残だという。

Kさんはその話に興味を示し、「それが生活保護とどう関係あるんですか?」と問いかけた。

実は、生活保護制度もまた“社会で生きるための集団的な仕組み”の一つなのだ。誰かが倒れたときに、全体の歩みを止めないためのセーフティネットであり、制度の本質は“ズル”ではなく“連帯”にある。

このような視点を通してこそ、偏見に満ちた視線を和らげ、制度本来の役割を理解してもらえる可能性が生まれる。生活保護に対する誤解と憎しみの奥にあるのは、多くの場合、自身の経験に根ざした怒りや無力感である。その声を無視せず、丁寧に向き合うことが求められている。